2022年 9月 の投稿一覧

ヒラメキの授業

タングラムのおもしろさの一つに「ヒラメキ」があります。その特徴は

  • すぐにできそう!でも、なかなか解けない(しかも答えは単純だった笑)。
  • そのやり方が上手くいかないと分かっていても,なかなかそこから抜け出せない(そんな自分をいやというほど知る)。
  • 手を動かしていると、正解が突然ひらめく。

このひらめきに関しては、夏の校内研修で紹介されていた、鈴木宏昭『私たちはどう学んでいるのか』(ちくまプリマー新書2022)の第5章に、ひらめき(洞察による認知的変化)について記述があります。

“ひらめきは突然訪れるかのように語られることが多い。しかしひらめきは練習による変化、発達による変化と同じ、つまり多様で冗長な認知リソースとその間の競合による揺らぎが、それが実行される環境と一体となり創発される。そしてその過程の大半は無意識的に進む。だから、ひらめいたときの驚きは、実は自分の無意識的な心の働きに対してのものなのだ。

『私たちはどう学んでいるのか』P.137” 

つまり、タングラムのような単純な問題がとけないのは、私たちの中にキョーレツな思い込みが存在するからであって、その思い込みが頭の目隠しとして機能してしまう。

しかし、その思い込みは思考の枠組みとして、日々の生活の中では考える認知的負荷を下げてくれる役割もあります。悲しい場面で相手の目に涙を見つけたとき、目薬をさしたのか、目にゴミがはいったのかなどと、わざわざ考え直さなないでしょ。

思い込みは問題解決場面においては制約要件として、はたらいてしまうことがこのタングラムからわかってきます。「この四角の角には□を使いたい。こっちの三角はきっと大きい△を使うにちがいない」といったような思い込みが、正答の邪魔をしてしまうのです。

実際に子どもからは「すごい思い込みをしていてできない問題もあったけれど、とけたらこういうことかと納得した」と感想がありました。

ここから抜け出るためには、自分の思い込みを認知し、様々な配置のパターンをためすことでヒントをつかめるようになります。さらに多様性の高い試行錯誤の末、突然、ひらめきに至るのです。

そこで、授業では「ひらめきやすい思考」「だれも思い込みがある」の二つの数学的に考えるミニレッスンを用意しました。最初2時間程度を予定したけれど、子どもたちの熱中、教材のおもしろさに感化され、結果、以下のようになりました。

  •  1時間目・タングラムを知る。全員で数問を解いてみる。
  • 2・3時間目・ミニレッスン:ひらめきをうむ・クラス全員で協力して全ての問題を達成する(2時間目:図形型問題・3時間目:文字型問題)
  • 4時間目・ミニレッスン:思い込みをなくす・タングラム問題をつくる。5時間目・友だち問題を解いて楽しむ祝福タイム。

つづく

タングラムはじめました

今年は学年2クラスの算数を担当しています。のべ100時間の授業がちょうど終わったことになりますが、なかなか思い描いたような授業とはならないことばかりです。とはいうものの、教材研究できる時間に恵まれていて、じっくりと「子どもたちと算数・数学するとは何か」、考えられる豊かな日々を過ごせています。

2学期の最初、面積の導入でタングラムを使って授業をしました。導入のつもりで扱うタングラムだったはずがあまりにもおもしろかったので、ついつい5時間ほど費やし算数・数学する時間を楽しんでしまいました。記憶の彼方に消えていく前にその実践報告をのこしておこうと思います。

タングラムってきっとどこかで触れているのではないでしょうか。昭和世代の人は温泉宿で窓からの景色を眺めながら、たいくつしのぎにやっていたあのパズルのこと。200年程前の中国発祥のパズルといわれており、正方形を7つに分けたピースを全て使って、ある形をつくります。

子どもたちにタングラムの説明すると、「僕もタングラムほしいんだけど、温泉で売っているの?」と聞かれました笑。クリエイティブな質問です。

現在、教科書ではトピック的な扱いでタングラムは紹介されているようです。また、残念ながらタングラムの多くは早期教育の道具として使われ、塾で子どもをパッと燃え上がらせるネタ扱い。いくつか先行実践や実践本を探してみたものの、なかなかよい本も見つけられなかったので、これに特化したカナダの数学教授のRonald.C.Read『TANGRAMS 330PIZZLES』を参考に授業づくりをはじめました(最近では翻訳Deepleもあり本当に、助かっています)。この本は超マニアックで、タングラムの歴史から始まり、その分類とタングラム愛にあふれています。

4年生までの既有知識として、正方形、長方形の面積の求め方は知っている子どもたち。平行四辺形の面積を求めるには、これまで知っている長方形に意図的に作り替えて求積する必要があります。図形領域は得意・不得意の個人差がでやすいもの。遊び感覚で「ふれて」楽しめるしかけとして、一人一つのタングラム(木製200円のもの)を用意しました。タングラムは図形の構成要素である辺や角、垂直、平行などの位置関係への理解を深めることにとても有効になりそうです。

軽い導入の扱いのつもりだったのが、子どもたちの熱中する姿に魅了されてしまいました。そのタングラムがもつおもしろさに「ヒラメキ」があります。

つづく