授業づくり

一人ひとりをいかす算数授業 その④ 一人ひとりを見届ける記録ノート「カンファランスノート」

子どもたちの学習や生活の記録は何に、どうやってつけるのが一番いいのだろう? ずっと試行錯誤してきました。今回は、とくに一人ひとりの様子を理解するという視点から、シンプルに名簿記録に戻りました。その名簿ファイルのことをかっちょよく「カンファランスノート」と呼んでいます、

ちなみに挫折してきた記録方法

  • デジタルPDFの名簿に書き込む(電源問題と一覧性の面から断念)
  • 日々のふりかえりとして、pagesに文書と写真や動画など記録していたけど、「全員を見届ける」という視点では甘くなっていました。焦点が気になっている子や目立ってしまう子に行きがち。結局、エピソード記述のふりかえり一つではうまくいかないものです。
  • その都度、Evernoteにメモとタグ付けして記録。後での検索能力は素晴らしい。けど、端末依存型すぎてなんか人間的にいや。

今は、学級名簿(紙ベース)+エピソード記録(クラウドベース)に落ち着きました。A4の学級名簿に、1時間ごとの練習問題の評価を入れています。気になったことや間違えの類型をそこにメモしたり。

結局、色々ためしてみたけどこれがシンプルで経済的にも続いています。名簿は子どもたちと一緒に確認することもあるので、学習の記録のようなものや連絡事項の記録、メモ書き程度にしています。

それを元にして、具体的な気になった子のエピソードや授業のふりかえりなど、今はEvernoteにフォルダを作ってタグ検索できるように、打ち込むようににしています。時間にして20分弱ぐらいかな。授業進度とは別に、一人ひとりの成長やハプニングのようなものは、学習とは少し別なので、エピソードとして記録が必要です。

結局は、授業中にすぐにメモできること。その場で積み重ねられること。これは、デジタルデバイスでは、電力や個人情報の面でやはり難しい。そして、記録する時間を授業以外で確保すること。これは、振り返りの時間のこと。結局は、この二つのことを地味に続けることが、少しずつ子ども一人ひとりをみようとする観察力が高まっていく筋トレなのかもしれないです。

記録する方法論だけでは、「一人ひとりをいかす授業」はもちろんうまくはいきません。学習内容を記録する意味のあるものにしていかないと結局は、記録ノートは、忘れ去れてしまいます。過去の自分がそうであったように…。

これ、A4の名簿用2穴ファイル。今は進化して穴に入れやすくなっているんですね。

一人ひとりをいかす算数授業 その③ ミドルアセスメント 中間テスト!

多くの人にとって「一人ひとりをいかす授業」はとても関心が高いということを実感しています。日々、どうやってこういう授業が「継続」していけるか、その構造と教師という要素に、今、興味があります。せっかくなので、実践や試行錯誤されている多くの先生たちがつながれるといいなぁ。と思っていたら、さっそくばんちゃんと新宿で会うことに。何事も、つぶやいてみることです。

さて、前回はプレアセスメントについて書きました。アセスメント(評価)にはプレアセスメントとポストアセスメントがあります。プレとは事前の評価、つまり診断的評価のこと。ポストアセスメントとは事後の評価、つまり、おまえはすでに○○でいる手遅れ評価のこと、いやいや、終末評価のことです。

今回はそのプレとポストの間の、ミドルアセスメントについてです。はい。勝手な造語です。最初で既有知を確認したら、最後の評価までの間に「形成的」に評価をいれていきます。形成的って教育用語で、ゴールと照らし合わせて、学習がどこまで進んでいるかをチェックし、これからどうしていったらいいかを進めていくこと。

この形成的ってのがくせもの。どのくらいの頻度で、何をどう見届けるのか。ここがまた難しい。これまで毎時間の小テストなるものもやってみたときもありました。けれど、それはどうも短期記憶の短距離勝負。その時間の定着を繰り返しドリルしているかんじです。もう少し長いスパンで測って、思い出せる仕組みの方がいいんじゃないかなぁと思い、単元の真ん中あたりで、プレアセで使った同じテストを1回目のテストの裏に印刷して、配りました。その名も中間テスト!センスなし!!

子どもたちには「そろそろ中間テスト(仮)やるよー」と、驚かせます。けれど、予想に反して「たのしみー」「わーい」でした。笑。自信があるんだね。なによりです。

なかには「イガせん、裏(のすでに解答していある自分の答え)見てやっていいの?」と正直に聞いてしまう子もいます。「ぜひやってほしい。けど、最初からじゃなくて、一度、解いてみてから自分がどれだけできるようになったかを確かめるために、チラ見して」というと、「チラチラ」とうれしそうにみていました。

中間テストをやってわかったけど、毎回、一人ひとりの見届けはしているつもりだったけど、やっぱり中期の理解においては1〜2人は定着していない子もいます。その子に焦点をあせて、どう関わるかを考える材料にできたのがよかったです。うれしいことに、浅い理解については多くの子たちはできるようになっていました。

こういう定点観測は、先生にとっての大きな安心材料と授業修正のきっかけになります。子どもたちがどれだけ学習が進んでいるのか理解するつもりだったのに、自分にとってもお得でした。

一人ひとりをいかす算数授業 その② プレアセスメントから

“もし私が、教育心理学の全てをただ一つの原理に変換しなければならないとしたら、私はこう言うだろう。「学習に影響を与える最も重要な唯一の因子は、学習者がすでに知っていることだ。それを確かめ、それに応じて適切に教えよ。

”アメリカの心理学者デイヴィッド・オーズベル

ずきゅん! やっぱし!

まずはじめに取りかかったのは、誰がどこまで「わり算のこと」を理解しているか既有知を調べることからにしました。相手のことを理解することは、人と関わる上でもかかせないものねぇ。

Prior achievement:学習の到達レベル d=0.64

ジョン・ハッティ『学習に何が最も効果的か』

その子が今、どれだけ理解しているのかを活用して授業するのって、めちゃめちゃ、効果が高いじゃん!

昨年度使っていたプリントに手を加え、単元テストっぽいものをつくりました。これまでの2桁÷1桁のわり算に加え、今単元で学ぶ2桁÷2桁、3桁÷2桁、文章問題などのプレアセスメントテストです。このことについては、これまでブログにも、教育雑誌にも書いてきました。作るのちょっとめんどくさいんだけど、最初につくっておくと、単元の最後にも使えるし、それ以降、自分の教材として使えるので、何かと便利でオススメですよ。

実際に子どもたちには「ぜんぜんできなくてOKだからね。」と話しました。「なんせ、まだ学習してもいないテストなんだから。もしかしたら数問解けたらラッキーね。できねぇなぁ、わかんねぇなぁ、こんな勉強するのかぁって味わいながら解いてみてね。成績とか全く関係なくて、みんなが何を知っているかを教えてほしいんだ。問題で悩んだところには『うーん』って書いといてね。大丈夫、わからんとき脳みそはシナプスいきいきしてるんだから」と、調子のいいことを言ってやってもらいました。

驚くことに三分の一の子たちはすでに満点に近い。残りの子たちが、素直に未学習。そういう子たちっていいなと思いました。もちろん「記憶にございません!」しちゃっている子もいます。この一人ひとりの結果を元に、この単元の計画を立てていく材料にしました。こういう教室の事実にこれまで、見て見ぬふりしていたんだなって思う。これは教え手の都合。一人ひとりに焦点を当てようとすると、これまでの仕組みにいろいろガタがきていることが、すけて見えてきます。

このプレアセスメントテストは、実は今後もしつこく使っていくことになります。僕はここがミソだと思います。とまぁ、今、何を理解しているかを大それた調査をするよりも、簡単な自作プリントでテストしたわけです。