中動態から見えてくる子どもの遊び 主体性よりも関係性と文脈の力

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明日は久しぶりのLAFT。今期のテーマは中動態で第3回目。僕は中動態という視点を得たことで、ものの見方が大きく変わったと感じている。特に「主体性」といった非認知能力が個人に備わっているという考え方が柔軟になった。「やる気のスイッチ」というものは、自分で入れるものではなく、ましてや他者がオンにしてくれるものでもない。むしろ、自然にスイッチが「入っちゃう」ものだと理解するようになった。

この中動態への理解に関連して、個人の中に能力が埋め込まれていて、それを伸ばすという教育観だけではバランスが悪いことも分かってきた。人の能力は個人の中に完全に備わっているものではなく、文脈に埋め込まれていて、流動的で場に依存するものである。そのため、現在の教育が一人ひとりの個別能力を伸ばすことに重点を置いていることに対し、違和感を抱けるようにもなってきた。

人が成長し、学び、知識を得る場面は、より社会的で協働的なものであり、単に情報を伝達したりダウンロードしたりするだけではない。人が成長し、生きていくということは、共に集まり、つながり、考え合い、より良いものに変えていこうとする行為そのものである。協働を通して能力を発揮し、より良いアイディアを見つけ、知的に活動することこそが要諦だと考えられるようになってきた。

中動態とはなんなのだろうか。

2016年に國分功一郎の『中動態の世界』によって広く知られるようになった。私がこの言葉を知ったのは、幼稚園の研究に参加したときである。中動態は、古代インド・ヨーロッパ語族(サンスクリット語や古代ギリシャ語)に見られるもので、能動でも受動でもない、第三の態である。これは、私を「場」として立ち上がるものを示す概念であり、「内と外」という構造を持っている。

このような考え方を持つ中で、子どもの「遊び」をどのように捉え、理解し、仮説を立てるかを学ぶ際には、中動態という概念が欠かせないと感じている。私たちは普段、能動と受動という二つの視点から物事を捉えているが、これは近代において発展したものであり、あまりにも当たり前になりすぎて、自覚することが難しい。しかし、中動態というもう一つの視点を知ることで、能動や受動だけでは見えなかった新たな視点が広がってくることが実感できる。

例えば、保育の実践において、子どもの遊びは能力育成に欠かせないとされているが、これを個人の問題として捉えることには限界がある。「いいことを思いついた!」という瞬間をどのように解釈するのかという問題に直面した時、能動的に「遊ぼう!」と思って遊んでいるわけではなく、また受動的に「遊ばされている」わけでもない。こうした能動と受動の対立構造では、子どもの遊びを正しく捉えることができない。ここで必要となるのが中動態の視点である。

子どもが「いいことを思いついた!」と言う場面を考えてみると、これは私が意図的に思いつくのではなく、その場にいる友だちが木に登ってみる姿、そこから飛び降りようとする姿などに触発され、私を「場」として、私の内側から自然に「いいこと」が思いつく状態を表している。その結果、私はその場に影響を受け、思いついたことを実行したくなる。遊びを中動態的な見方で捉えることで子どもの世界の豊かさがより見えてくるようになってくるのである。

この考え方については、佐伯 胖 (著, 編集), 矢野 勇樹 (著), 久保 健太 (著), 岩田 恵子 (著), 関山 隆一 (著)『子どもの遊びを考える: 「いいこと思いついた!」から見えてくること』の第1章から第4章で矢野が詳しく論じられており、とても参考になる。いつか対話してみたい人のひとりである。

近代の視点では、能動と受動、遊びの主体性や受動性について捉えるが、これだけでは不十分である。意思とは、単なる責任や意図の問題だけではなく、私たちが生活する文脈と密接に関連している。遊びは能動的でも受動的でもなく、中動的な行為であると考えるのが適切であることが分かってくる。

現在、私はこの中動態の視点を活かして、教室の中で「つい、いいアイディアを思いついちゃう」場を作り出すための条件についてLAFTで考えあっている。しかし、これは単純に材料を揃えればよいものではなく、絵画のようにキャンバスと絵の具があっても、完成する作品が異なるように、その場の特性によって大きく影響されてしまう。中動態的な授業は、その集団の場に大きく影響されるものであり、ワークショップ形式の授業と非常に親和性が高く、「いいこと思いついちゃう」場となりやすいと考えている。

明日、LAFTで具体的な保育場面における中動態についてブッククラブを開催し、語り合う予定。教育的な理論や哲学、思想に偏ることなく、実践する力を参加者のみなさんと対話を通して伸ばしていきたいと思っている。

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