今日は数学者の時間の3セット目。いよいよ自分たちがつくった問題を解き合う時間。出版された4人の問題を配付した。その中から子どもたちは自分が解きたい問題を選んで解く。問題を解いたら、その感想をファンレターとしてメッセージカードでプレゼント。ほっこりとする祝福タイムで僕はこの時間を気に入っている。
クラスをまたいでファンレターが行き交う。いつもはスンとすましている子も、隣のクラスからのメッセージに顔がほっこりしていた。普段なかなか目立たない子も、このときばかりはたくさんのファンレターをもらって嬉しそうだった。いい時間だ。
問題を解き終わった女子4人組の子たちが、自分たちの問題が完成したので出版しようともってきた。そして僕に挑戦状をたたきつけてきた。
「イガせん、これといてみてよ」
きた、上から目線のこのかんじ。
問題をちらとみると、ロープにつながれたヤギ問題の数学的構造をつかっての問題。そこに時間の計算も含まれていた。なかなかよくできている。
『柱に繋がれたヤギは16秒で5㎡の面積の草を食べて34秒休む。繋がれたひもは86mある。何時間何分何秒で動ける範囲の草を食べきることができるか。』たしかこんな問題だったかと思う。
僕一人で格闘していると、それに気付いたクラスの算数達人少年が隣にすわって一緒に参戦してくれることになった。
「イガせんがかわいそうじゃないか」「一緒に考えてあげるよ」おお、なんとも心づよく優しいやつ。
僕と少年は、ロープ86mでヤギが最大限に食べられる牧草地の面積を求め、そこから時間をわりだそうと、表をかいて特殊化して、丁寧に計算をはじめた。
「ここでひっかかるね」「あ、やっぱり!」
と鼻をふくらませて嬉しそうな女子軍団。
どうも答えはちがうらしい。うーん、くやしい。横で何度もあおってくるので、じっくり考える機会にならなくて「キー!これむずい」とイライラしていた。
すると少年が、「ここがまちがっているのかなぁ」「計算はあってるはずでしょ」ととても前向きな姿勢に心打たれ、僕もひっぱられるように、また問題にもどることができた。なるほど、仲間と学ぶってこういう体験を繰り返しているのか。
結局、この1コマの時間、ずっと僕はこの問題と格闘しておわった。たまに他の子の様子を流し見しながら、僕も問題に没頭する。それでもいい時間だと思っている。
その日のその子たちのジャーナルに「いつものしかえしができた。イガせんがまちがえて心地よい」と書かれているのを隣の担任が見せてくれた。
「まんまとイガキさんの思惑通りに育ってるわね笑」ノートを点検しながらこの授業の様子をみていた隣の担任が笑って話してくれた。
おもしろい子たちが育っていると思う。僕はこういう雰囲気はキライじゃない。教師も子どもも同じように挑戦しあえるといい。先生だって仲間の一人。
そして数学者の時間は次の新しい問題へとつづく。
