2024年 11月 の投稿一覧

「ちがう」ことは「当たり前」の学校を見学した

先日、長野県にある「しなのイエナプランスクール大日向小学校・大日向中学校」を見学させてもらった。

そこには、かつて僕が夢見ていた子どもたちの姿があった。教室はどれも居心地が良く、静かで落ち着いた雰囲気の中、子ども一人ひとりが大切にされていた。

子どもたちは実に多様だった。人懐っこい子もいれば、マイペースな子もいる。それぞれの違いを尊重し合い、異なる個性が「当たり前」として受け入れられている空間だった。一日中参観させてもらい、いろんな子どもたちと話をする中で、子どもたちが自分たちの学校に自信を持っていることが伝わってきた。

僕自身はその場面に立ち会えなかったが、1・2年生の教室でサークル対話が行われたときのエピソードを同僚から聞いた。グループリーダー(先生)が席を外していた間、子どもたちは自分たちでウクレレを弾きながら歌い、自然と集まって語り合ったという。その場では、お互いの異なる意見や立場に耳を傾け、「ちがい」を大切にしようとする姿勢が1・2年生の姿に見られたそうだ。同僚の話を聞き、その光景を想像すると、とても心が温まる思いだった。

僕は以前、イエナプラン教育の20の原則に基づいてNPOを立ち上げ、活動に関わったことがある。その原則は「人間とは何か」「社会とは何か」「学校とは何か」という本質を問い直すもので、日本の学校もこうなればいいなと憧れていた。

大日向小中学校では、懐かしい先生方との再会も束の間、すぐに子どもたちが生活している空間を朝の会から見学させてもらった。サークル対話では、子どもたちが関心のある話題を中心に語り合い、しっとりとした雰囲気の中で一日が柔らかく始まる様子が印象的だった。

続いて見せてもらったのがブロックアワー。子どもたちは一人ひとり自分の課題に向き合い、格闘している姿が見られた。この学習時間では、1週間ごとに課題が提示され、それを自分で選んで形にしていく。この「1週間単位」という仕組みが、個々の子どもたちの違いを大きな差とすることなく進めるための絶妙な設計となっていた。

もちろん、ここまでの学校づくりが順調に進んだわけではなく、さまざまな試行錯誤を経て現在の形になったと、校長の久保さんが話されていた。久しぶりにお会いできて、本当に嬉しかった。

イエナプランの理念を大切にしながらも、「じゅうたんの部屋」など日本独自の取り組みも工夫されていて、常に改善を重ねながらより良い学校を目指している姿があった。その過程そのものが、「学校している」ということなのだと実感させられた。

午後の教員研修では「数学者の時間」の研修をひとつ担当させてもらった。「ぜひ取り組んでみたい」と声をかけてもらい、じっくり話をする機会もあった。あまりの楽しさに夢中になりすぎて、一緒に見学に行った仲間たちは僕を置いて先に帰ってしまったのも、今となっては良い思い出かな笑。

ブロックアワーの学習内容や教師たちの願い、そして子どもたちと共に描いていきたい教室の姿は、悩みながらも現在進行形で形づくられている。それだけに、「できる・できない」という能力主義的な学習観とは異なる「数学者の時間」のような実践が役立つ可能性を感じている。

近くイエナの中高学校も新設されるとのこと。その建学の精神にイエナプランの思想が根付いていることで、どんな困難な局面でも支えられ、きっと上手くいくのだろうと勝手に想像している。

それにしても、学校の枠組みを根本から捉え直すような実践ができていない現状を深く反省した。自分の実践の小ささを改めて痛感すると同時に、今回の見学がとても良い学びの機会となった。

マンガ『火の鳥』展へみんなで行こう!LAFT生命編 募集中!

LAFT特別企画・LAFT生命編 募集中!

生命とは何か? マンガ『火の鳥』展へみんなで行こう!手塚治虫と福岡伸一の生命観に迫る(全2回)

日本のマンガ史上最高傑作の一つ、手塚治虫の『火の鳥』。なんとその展覧会が来年3月に開催されます。

僕は小学生の頃に初めて『火の鳥』を読み、中学、高校、大学、そして社会人と、人生の節目ごとに繰り返し読み返してきました。この作品には、永遠の命を求めて葛藤する人間の姿がありのままに描かれています。僕にとって手塚治虫作品は欠かせない存在であり、『火の鳥』のテーマである「生命」がどのように表現されるのか、今から楽しみで仕方ありません。

手塚治虫『火の鳥』2巻より ★ちなみに僕はロビタをこよなく愛しています!

今回、展覧会をさらに魅力的にしてくれるのが、福岡伸一さんの解説です。超贅沢! 福岡ハカセは生命を「動的平衡」として捉え、その本質を深く語っています。著書『新版 動的平衡』では、「生命は機械ではなく、動的平衡」というメッセージが繰り返し語られています。

「つまり、生命とは機械ではない。そこには、機械とは全く違う。ダイナミズムがある。生命の持つ柔らかさ、可変性、そして全体としてのバランスを保つの、それを私は動的平衡と呼びたいのである。」(『新版 動的平衡』 P.261)

生命は時間の流れとともに変化し、エントロピー増大の法則に抗いながらも、それを受け入れ、再構築し続けるシステムであると福岡ハカセは語ります。このような「流れ」そのものが生命の本質だという視点が、手塚治虫が描いた『火の鳥』の世界観とどのように交差するのか楽しみなところです。

個々の生命がエゴイスティックでありながら、全体としては利他的なシステムであるという視点は、僕たちが「生きる」ことの意味を問い直すきっかけになるのではないでしょうか。はたして火の鳥とは生命を解き明かすシンボルとなりうるのでしょうか。このあたりを考えるのは楽しみでしかありません。

今回、LAFTの新企画としてマンガ『火の鳥』と『動的平衡』を読み比べ、実際に展覧会でその生命観がどのように描かれているのかを語り合う中動態的な場を設けます。この対話を通じて、「生命とは何か」「生きるとはどういうことか」を一緒に考えてみませんか?

オンライン参加はありませんので、ぜひ現地でご参加ください。

第1回:ブッククラブ「生命について語り合おう」

日時:1月19日(日)9:00〜13:00 場所:桐朋小学校

第2回:『火の鳥』展見学と懇親会 

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000056.000047885.html

日時:3月8日(土)15:00〜 場所:東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階) ※見学後、六本木で懇親会を予定しています。

参加費:どちらも無料 ※ただし、以下は各自でご負担ください:課題図書の購入費、『火の鳥』展の入館料、懇親会の飲食代

参加資格:課題図書を事前に読んだ教育関係者ならどなたでも参加可能です。

定員:コアメンバー12名(今回はオブザーバー参加はありません)

課題図書(必読書):手塚治虫『火の鳥』全14巻、福岡伸一『新版 動的平衡』 どれもおもしろいので冬休みの宿題にしてください。

参考図書(読める方はぜひ):福岡伸一『動的平衡2』『動的平衡3』ほか

内容

手塚治虫が描いた永遠の命を持つ『火の鳥』と、それに翻弄される生命の物語。そして、福岡伸一の『動的平衡』が語る、生命とは何か。これらを通して、「生命とは何か」「生きるとはどういうことか」を考え合います。学校現場において生命をどう捉え、どう教えるべきか、対話を通じて探求するのがLAFTの学びの場です。

お問い合わせ

コメント、またはメッセンジャーにてお知らせください。Facebookグループ「LAFT生命」に招待します。また、何か質問がありましたらお気軽にお問い合わせください。

「数学者の時間」は資質・能力を育てる

神奈川県の鵠沼にある湘南学園小学校で開催された関東地区私立小学校教員研修会にて、「数学者の時間」について算数部門で実践報告をしてきた。

この研修会には、東京都の私学を除く神奈川県、山梨県、長野県など広範囲から参加者が集まり、特に算数に興味・関心のある先生方が多く集まっていた。僕としては、「数学者の時間」が算数教育に携わる先生たちにどのように伝わり、どのように評価されるのかがずっと気がかりであった。

研修はあっという間の3時間で、その後の質疑応答でも多様な質問が寄せられ、深く考える機会をもらえた。ある先生からは「日々の算数授業で資質・能力を高めようとしても難しいが、週に1回『数学者の時間』として取り組むことで、考える力を通じて資質・能力を育てることができるのではないか」というフィードバックを直接いただき、非常に励まされた。

「数学者の時間」の実践は、既存の算数・数学教育に対して新たな課題を投げかける側面があり(新しい実践には往々にしてそうした側面があるものだが)、受け入れられるか不安もあった。しかし、「なるほど、少しは文科省の役に立つ実践になっているのか」と前向きに捉えることができた。

また、子どもたちの実態を見ても、「数学者の時間」を本当に楽しんでいる子どもが多い。しかし一方で「考えることを楽しめない子どもをどう支援すべきか」という質問をいただき、大きな課題も浮かび上がってきた。このあたりも教室の姿をもとに、取り組みを描き出せるといい。

この時期は入試、研修会、LAFT、バスケの練習や観戦、『ゴースト・オブ・ツシマ』などに追われ、忙しい日々を過ごしていたため、なかなかじっくりと振り返る時間を取ることができなかったが、一区切りがついたので、年末に向けて少しゆったりと過ごせるといいなと思う。

最近は毎日8時間の睡眠を心がけているので、疲労やストレスにも強く、基本的に元気でしかない(笑)。